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<第59回 滞納と賃貸借契約の解除>


無催告解除特約あっても意思表示は必要

退去前の物品処理は刑事責任の可能性
――消費者保護時代、慎重に対応を


滞納2回・契約書には「解除できる」とあるが・・・

建物賃貸人(大家さん)からよくあるご相談(ご質問)として、「賃貸借契約書に、@『賃貸人は、賃借人が家賃の支払いを1回でも怠った場合には、催告なしに直ちに契約を解除することができる』、A『契約が終了したときは、賃借人は直ちに原状に復して建物を明け渡す』B『建物内の残置物について、賃借人はその所有権を放棄し、賃貸人において自由に処分できる』という特約があります。賃借人は2回の家賃を滞納しましたので、賃貸人の方ですぐに建物内の物品を処分して賃借人を追い出したいのですが、可能でしょうか?」というものがあります。

この大家さんのお考えとしては「家賃を2回も滞納したのだから、右特約@の適用によって当然に賃貸借契約は終了し、右特約Aの適用によって賃借人は直ちに建物を明け渡さなければならず、右特約Bの適用によって賃貸人は建物内の物品を自由に処分できる。」ということのようです。

この大家さんのお考えには大きな問題(誤り)があります。非常に基本的な問題なので指摘しておきます。

■問題点1

まず、ご相談で出てきた特約@のことを無催告解除特約とも言いますが、このような特約は、「賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合・・・この限度においてその効力を肯定すべきもの」と解されています(最高裁昭和43年11月21日判決参照)。

家賃不払い(債務不履行)に基づき契約を解除するには、本来、「催告」つまり債務者に対して家賃の支払いを請求する意思の通知が必要です(民法541条)。無催告解除をする場合、それなりの事情(長期滞納、不信行為等)が存在しなければなりません。

ご相談のケースの場合、それほど長期の滞納ではありませんので、一応「催告」した上で解除すべきでしょう。

この点、前記特約@のような無催告解除特約があれば解除の意思表示すら不要とお考えの大家さんもいらっしゃいますが、それは誤りです。無催告解除特約があっても解除の意思表示は必要です。

■問題点2

ご相談で出てきた特約A及び特約Bに関しても、この大家さんの理解には問題があります。

まず、今回のご相談のケースでは、賃借人はまだ(任意に)退去しているわけではなく、建物明渡しが完了しておりません。賃借人がいまだ建物を占有していると言えます。もちろん、適法な契約解除によって契約終了の効果が生じていれば、賃借人の占有は違法です。賃貸人は賃借人に対し建物明渡しを求めることができますし、賃料相当損害金等の支払いを請求することもできます。しかし、請求できることと実力行使できることとは別です。

さらに言えば、賃借人がいまだ建物を明け渡していない以上、前記B『建物内の残置物』に関する特約の適用もありません。この特約Bは、建物明渡し後の残置物を前提とした規定だからです。

賃借人が建物を占有している状態下で、賃貸人が実力行使で賃借人の物品を処分した場合には民事的な責任(損害賠償責任)はもちろん刑事的な責任も問われかねません。

■対応策

上記の問題点を踏まえると、今回の大家さんとしてはどのような手続きを取るべきでしょうか。

原則的手続きとしては、@未払い賃料の支払いを催告した上で契約解除の意思表示をなし、そして、A賃借人に任意明渡しを求め、B賃借人が任意に建物を明け渡さない場合には、民事訴訟等を提起して判決等をもらい、Cその判決等に基づいて強制執行する、という手続きを取ることになります。

たしかに法的手続きには時間とお金がかかりますが、我が国において自力救済は原則として認められておらず、また、今日の消費者保護の趨勢を考えると、やはり大家さんとしては慎重に対応しておくべきでしょう。

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<参照条文>
履行遅滞等による解除権(民法第541条)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2009年9月28日号掲載)

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