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<第38回 公・私法上の境界>


筆界と所有権界は区別して解決


公法上の境界
私的な変更不可


前回(本誌10月27日号において)は、「境界」について述べています。「公法上の境界」、「私法上の境界」、「隣地境界線」、「敷地境界線」、「道路境界線」を挙げ、それぞれの意義の違いについて簡単に説明しています。

今回は、「公法上の境界」と「私法上の境界」について、もう少し考えてみましょう。

1 公法上の境界について

不動産登記法上、土地の単位は「筆」で表されます。それぞれの筆には地番が付きますが、地番は国の機関である登記所が定めますので、筆の境目である「筆界」は国が定めていると言えます。この筆界を公法上の境界と言います。

本来、公法上の境界(筆界)は、客観的・物理的に一つ(一本)決まっているはずです。ところが、土地上に境界線が引いてあるわけではありません。そのため、筆界がどこなのか、隣接地所有者間で争いになることも少なくありません。

たとえば、図1(PDF版掲載記事参照)の甲地所有者Aさんは「筆界はハニを結んだ部分だ」と主張し、乙地所有者Bさんは「筆界はイロを結んだ部分だ」と主張している事例で考えてみましょう。このようなとき、私人間の合意で、公法上の境界(筆界)を定めることはできません。公法上の境界(筆界)は国が定めたものなので、それを私人が自由に変更することはできません。

2 筆界特定制度

では、筆界について争いがある場合、私人としてどのような手続きを取れるのか考えてみましょう。

まず考えられるのは、平成18年1月20日に施行された筆界特定制度です。筆界特定制度とは、登記官(筆界特定登記官)が、土地所有者等の申請に基づき、筆界調査委員の意見を聞いて土地の筆界を特定する制度です。事例のAさんやBさんは、この筆界特定の申請をすることができます(不動産登記法131条以下)。

なお、この筆界特定は、筆界の位置(事実)を認定するだけで、筆界を形成するわけではありません。AさんやBさんが、この筆界特定に納得できないのであれば、訴訟(境界確定訴訟)を提起することも理論上可能です。

3 境界確定訴訟

図1の事例のAさんやBさんは、筆界特定申請によらず、境界確定訴訟(境界確定の訴え)を提起することも可能です。筆界特定の申請をするか、境界確定訴訟を提起するかは自由(任意)です。

なお、境界確定訴訟の判決は、筆界について形成的効力があります。この判決が確定すると、登記官の筆界特定は当該判決と抵触する範囲でその効力を失います(不動産登記法148条)。

4 私法上の境界(土地所有権の境について)

以上で述べた筆界特定制度や境界確定訴訟は、公法上の境界(筆界)について判断されるだけで、私人間の土地所有権の範囲を判断するものではありません。したがって、土地所有権について紛争が生じているのであれば、その点について解決する必要があります。

一般には、筆界が特定されると、土地所有権の境目(私法上の境界)に関する紛争も解決することが多いでしょう。しかし、私法上の境界と公法上の境界とは、必ずしも一致しません。土地所有権の範囲は、時効や処分(譲渡等)によって変わることもあります。例えば、図1の事例において、公法上の境界はホヘを結んだ線であり、元々はその線(ホヘ)が所有権の範囲を画するものであったとしましょう。そのようなケースで、乙地所有者Bさんが、イロを結んだ線の部分まで自分の所有地だと思い占有していれば、イロヘホ部分の土地を時効によって取得することもあります(民法162条)。また、過去に、土地の一部を分筆せずに譲渡した、ということもあり得ます。

5 私法上の境界の争いの解決方法

公法上の境界の問題とは異なり、私法上の境界の問題は、当事者(私人間)の話し合い(合意)で解決することが可能です。もちろん、訴訟(土地所有権確認の訴え)を提起することも可能です。もし、筆界(公法上の境界)と所有権境界(私法上の境界)の両方に争いがあるのであれば、境界確定の訴えと土地所有権確認の訴えを一緒に(併合して)提起することになるでしょう。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2008年11月10日号掲載)

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