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<第26回 関心高まる「遺言」について>


遺言書作成の際は「遺留分」に注意 
内容次第でトラブルになる場合も


年々増加する遺言の作成件数

近年、「遺言」に関する関心が高まっています。平成18年までの統計によると、公証人による公正証書遺言の作成件数は年々増加してきており、平成18年の作成件数は7万件を超えています。

ところで、遺言が存在しない場合、遺産の分割については相続人全員で協議することになります。もし、協議が調わなければ、遺産分割調停事件として家庭裁判所に持ち込まれることになるでしょう。そのときには、「相続」が「争族」と化していることも少なくありません。ちなみに、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割調停の件数も年々増加してきており、平成18年における遺産分割調停の新受件数は1万件を超えています。

このような背景に鑑み、今回は、不動産が遺産の場合の「遺言」について考えてみましょう。

意思に合致する遺産の承継可能

たとえば、遺産(不動産)を遺す人(被相続人)に、複数の相続人がいるとします。

被相続人が、ある特定の不動産を特定の相続人に相続させたいと考えても、遺言がなければ、遺産分割されるまで(民法909条参照)、その特定不動産は法定相続分に応じて相続人全員の共有となります(民法898条)。

もし、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(遺産の分割の方法を定める遺言)があれば、その特定不動産は被相続人の死亡の時に直ちに(遺産分割協議や審判を経ることなく)当該相続人に承継されます(最高裁平成3年4月19日判決)。つまり、遺言者の意思に合致するような遺産の承継が可能となるのです。

紛失の心配ない「公正証書遺言」

普通方式の遺言書の種類としては、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類があるのですが、紛失や偽造・変造を避けるためには「公正証書遺言」を残しておくべきでしょう。公正証書遺言は、費用や手間(証人二人の準備等)はかかりますが、公正証書原本が公証役場に保管されますので、紛失等を避けることができます。

また、遺言書は、形式的な不備があると無効となってしまいますが、公正証書遺言であれば公証人が作成しますので、形式不備による無効ということを避けることもできます。

文言や内容に関する留意点

遺言書を作成する場合、形式面はもちろん、文言や内容についても留意しなければなりません。

(1)たとえば、不動産について「相続させる」と書いてある場合と「遺贈する」と書いてある場合とでは、その効果(手続)が異なってきます。不動産登記申請を例にみると、「相続させる」とある場合には遺言書に記載された人が単独で登記申請できますが、「遺贈する」とある場合には、単独申請できず、遺言執行者又は他の相続人と共同で申請する必要が出てきます。

(2)また、遺言書を作成する際には、遺留分についても留意しておく必要があります。
「遺留分」とは、一定の範囲の相続人のために保障された最低限の相続割合のことで、その部分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、遺留分減殺請求をすることができます。

「遺留分」侵害で争族深刻化も

遺言内容が、一定の相続人(配偶者、直系卑属又は直系尊属)の「遺留分」を侵害しているような場合には、相続人間でトラブルになることがあるのです。

例えば、遺産が不動産のみで、相続人が子供2名(AとB)であるようなケースで、「不動産全部をAに相続させる」旨の遺言は、一見、Bの遺留分を侵害していると言えるでしょう。もちろん、この場合でもBが納得(「遺留分の放棄」)すれば問題ありません。しかし、Bの立場の人は、なかなか納得せず、Aに対して遺留分減殺請求権を行使することが少なくありません。そうすると、Aとしても簡単には引き下がらずに、「Bには特別受益(民法903条)がある」とか、「自分(A)には寄与分(民法904条の2)がある」とか主張して、争族・紛争が深刻化することもあるのです。

遺言については、他にも様々な問題(留意点)があるのですが、遺言は(遺言者の意思によって)いつでも何度でも変更することができますので、まずは気楽に作ってみてはいかがでしょうか。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2008年4月28日号掲載)

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