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<第5回 借家人死亡時の賃料支払義務>


死亡前の未払家賃は相続人が負担 
契約解除時は共同相続人全員と合意を


借家権も相続対象

今回は、賃借人(借家人)が死亡した場合の建物賃貸借契約、賃料支払義務及び契約解除(解約)に関し、一般的な大家さんの疑問をもとに、法的に検討していきましょう。

Q 賃借人(借家人)が亡くなりましたが、建物賃貸借契約はどうなるのでしょうか。

A 建物賃貸借契約における賃借人の地位(借家権)も財産権の一種として、相続の対象となります。つまり、亡くなった方(被相続人)の借家権を相続人が相続することになります。

Q 相続人が一人であれば単純ですが、相続人が複数いる場合にはどうなるのですか。

A 相続人が複数いる場合、遺産分割されるまでは共同して相続している状態です。つまり、複数の相続人が借家人の地位に立ち、各自建物全部を使用収益することができるということです。

Q 相続人が複数の場合、家主としては、誰に家賃を請求すればよいのでしょうか。

A この点については、@相続開始前(賃借人死亡まで)に生じていた未払家賃、A相続開始後(賃借人死亡から)遺産分割までに生じた家賃、B遺産分割後に生じた家賃を分けて考える必要があります。 

遺産分割後賃料は特定の貸借人が負担

@相続開始前の未払家賃については、単純な金銭債務として、共同相続人はその法定相続分に応じて債務を負担することになります。このような債務を一般に「可分債務」と呼んでいます。例えば、相続開始前の未払家賃が30万円となっているとき、相続人が3名で各自平等の割合で相続したとすれば、相続人は各自10万円を支払わなければなりません。賃貸人としては、各自に10万円ずつ請求することになります。

A相続開始後遺産分割までの間に生じた家賃については、共同相続人のうち誰に対しても家賃全額を請求できます。例えば、月額家賃が10万円であれば、賃貸人(家主)は共同相続人のうち一人を任意に選んで家賃10万円を請求することができます。共同相続人としては、賃貸人(家主)に対して各自建物全部の使用収益を主張できる地位にある以上、賃貸人(家主)に対して各自賃料全額の支払義務を不可分的に負っています。このような賃借人の不可分的な賃料支払義務について、一般的に「不可分債務」と呼んでいます。

B遺産分割後に発生する賃料については、遺産分割により決められた賃借人(借家人)に請求していくことになります。

Q 現実的には、相続開始から遺産分割まで相当の時間がかかると思います。遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じると聞いたことがあります。そうすると、相続開始から遺産分割までの未払家賃について、遺産分割で決まった賃借人(借家人)に対してのみ請求することになるのでしょか。

A たしかに、遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(民法909条)。そもそも、借家権の相続についてみると、遺産分割されるまで、共同相続人は各自、建物全部を使用収益することができる地位にあったのですから、家主に対して負っていた家賃の支払義務が遡及的に消滅することはありません。したがって、賃貸人(家主)としては、遺産分割までの未払家賃については、共同相続人全員に対して(不可分債務として)全額の請求ができると考えるべきでしょう。

Q 家賃不払いが相当長期になっておりますので、契約を解除したいと思います。このような場合、誰に対して契約解除の意思表示をすればよいのでしょうか。

A まず、誰が借家人(賃借人)たる地位にあるのか確認します。例えば、共同相続人間において遺産分割がなされていない状態であれば、共同相続人が借家人たる地位についていますので、契約解除の意思表示は共同相続人全員に対して行う必要があります。特定の者が、他の者(共同相続人)から代理権を与えられているような状況であれば、当該特定の代理人に対して解除の意思表示をすれば十分ですが、一般的には代理権の存在は明らかでないと思いますので、共同相続人全員に対して解除の意思表示をしておいた方が無難です。

Q 賃借人(借家人)が死亡した場合、現実的には、相続人と賃貸人(家主)の間で合意解約(賃貸人と賃借人との合意に基づく解約)する場合が多いと思いますが、この場合にも、共同相続人全員と合意しなければならないのでしょうか。

A 合意解約の場合も、前述と同様、共同相続人全員と合意しておいた方が無難です。



(著者プロフィール)
弁護士 平松英樹氏
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1-14-5土屋ビル4階)、EMG有限責任事業組合、首都圏マンション管理士会などに所属。

(「全国賃貸住宅新聞」2007年5月14日号掲載)

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